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村上隆個展「Learning the Magic of Painting」が
パリのペロタンギャラリーにて開催されます

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村上隆個展「絵画の魔法を学習中」
ペロタンギャラリー(パリ)
2016年9月10日 – 2016年12月23日

https://www.facebook.com/events/941749599269908/
https://www.perrotin.com/exhibitions/takashi_murakami-takashi-murakami/2031

村上隆のメッセージ

私は、、、
19歳の時に絵画を学び始めてから、54歳になる今まで、
まさに今もその最中ではあるのですが、絵画の魔法を学習中です。

絵画は意志によって生成のプロセスに入る。
絵画は意思を超越した瞬間に絵画になろうとする。
絵画は絵画になってしまっては絵画ではなくなってしまう。

その真髄は
まさに魔法的であって、つかみどころがないのです。

しかし、私たちはその絵画の絵画たる、そのものの前に立つと、
それが本物の絵画であることは理解できるのです。

天才は易々とその境地に辿り着くでしょう。

数名の天才が残してくれた絵画の魔法のレシピを拝みました。
それはそれは、素晴らしい魔法のレシピです。
でも、その天才が生まれた土地、時代、地位、生きた人生すべてを取り巻くあれこれ、
が違いすぎてしまい、私自身には、すぐさま転用できないのです。

その魔法のレシピの幾つかを
私の脳の中に組み込むのですが、互換できたりはしない、
それどころか、拒否反応も起こすのです。

魔法に辿り着けるアイディアの閃きが去来しない。
だから、毎日毎日、ただただ学習し、その成果を描き記すのです。

でも、ふと振り返ると
二十数年前、そうした苦心惨憺とした過程で描き記された自分の絵画的なメモにも、
先人の天才達とはちょっと違って、いじけていたり、
変形しすぎていて理解しづらかったりするのですが
自分なりの、魔法の呪文の痕跡が残っている事に気がつきます。
一つ一つのメモを今一度まとめ直すと、少しだけ、魔法が現れるかもしれない
魔法陣の一部を形成しているかもしれない。

否!
これはもしかしたら私の勘違いが引き起こしている悲劇かもしれない。

しかし、私が生きていく為の希望は手に入れられるのです。

毎日毎日、ほんのすこしだけの痕跡が残るようにと学習し、成果を描き記し続けることで、
悲劇かもしれない私の生きる希望、私の絵画の魔法陣のレシピが積み上がってゆくのです。

近い将来、、、、
我が身が朽ちる、その直前まで、
その魔法を召喚できるかもしれない魔法陣の完成度をあげてゆき、
絵画の魔法の真髄を少しでも理解し、
そして絵画の魔法を生成するレシピを完成に近づけたい。

今回の作品も、その道の半ばの学習の記録です。
私なりに真剣に歩んできたつもりですが、まだまだ、、、
私なりの魔法の真髄にまでは到達できてはいません。

でも、そのカケラたちは、1つ1つの作品に込められているはずです。

それらが悲劇であったとしても!私はそう信じたい。

本当に絵画の魔法を召喚できる魔法陣を創れるのか
すべてが勘違いで、悲劇の人生を、送ってきているだけなのか。

どちらにせよ、
私は今日も、
絵画の魔法を学習中なのです。

ペロタンギャラリーからのプレスリリース

ペロタンギャラリー(パリ)は、当ギャラリーでは20年振り以上となる村上隆の個展(同作家の個展としては12回目)を、9月10日から12月23日までの会期で開催する運びとなりましたことを、喜んでお伝え申し上げます。

パリの76 rue de Turenne & 10 impasse Saint-Claudeに所在する3つのスペースにまたがる本展は、40点を超える新作また今まで未発表の作品を一堂に集める内容となります。なかには、ついさきごろ2015年〜2016年初期までに、東京の森美術館で開催された村上の大規模個展「村上隆の五百羅漢図展」で展示された作品も含まれます。村上の世界に登場するアイコンたちである727からゲロタン、DOB君、龍やパンダシリーズまで、さらに神話に登場する動物である獅子や象、虎、ヤギなどを集めたアンソロジーとしての大作「A Picture of Lives Wriggling in the Forest at the Deep End of the Universe」(2015)が特に注目すべき作品です。

それ以外も、「羅漢」というテーマをモチーフにした作品シリーズも披露します。羅漢とは、2012年の村上がカタールでの回顧展用に作った、100mの大作「五百羅漢図」で検討したモチーフであり、その内容は欲や憎しみ、迷いを克服して悟りを開き、前世からの業を消滅させた、仏陀の500人の弟子が描かれています。

羅漢信仰は平安時代に日本に伝えられ、江戸時代に、絵画や彫刻というかたちをとり国中で盛り上がりをみせました。とくに1855年の安政の大地震の直後に制作されました、狩野一信による「五百羅漢図」(東京、芝の増上寺蔵)という100幅の掛け軸から成るシリーズは、村上に多大なインスピレーションを与えていて、村上の「五百羅漢図」も2011年の東日本大震災と津波を受けて制作しました。この震災と津波は、村上の作品の方向性を深いところから変えることになりました。ここで披露される羅漢ペインティングはその傑作による延長、または引用ともいえます。また、少し皮肉を込めて、村上本人も、展示会場ロボットの羅漢という自画像でまで登場します。

ペロタンギャラリーはまた、村上の「円相」シリーズからもいくつかの作品を選び、展示いたします。これら新作ペインティングの主題は日本の禅画において最も有名なモチーフのひとつで、「円相」は禅宗における虚無、統合、そして無限をシンボライズしています。2007年以降の村上はまた、禅宗の偉人たちも描いています。禅僧の始祖である達磨大師や、僧侶の慧可が達磨に捧げるため自ら切り落とした手が、それにあたります。慧可はのちに、達磨の法統を継いで禅宗第二祖となりました。円相ペインティングは、静かな進行中の精神修養の結果として得られた、村上にとっての悟りを表しています。円相は、全ての創作活動の前提ともいえる、心を無にして体の赴くままに創作する瞬間のことです。滑らかな熟練の筆遣いで一息に描くのが伝統のこの円は、心変わりを許しません。村上の円相は、独自のスタイルで制作されます。つまり村上作品の象徴である積み重ねられたお花とドクロの上に、スプレーを使って円を描きます。円相は日本の文化へのオマージュであり、複雑な芸術的および精神的歩みを経た、より自由なミニマリスト的実践への回帰なのです。

そして、今回の全く新しい新作シリーズとして、20世紀中期のマスター、フランシス・ベーコンにインスパイアされた連作を発表します。村上は2002年にも、「Homage to Francis Bacon (Study of George Dyer)」と「Homage to Francis Bacon (Study of Isabel Rawsthorne)」という2点のペインティングでベーコンへのオマージュを行ってきましたが、今回も「Portrait of Lucian Freud」のように、悩める人像にフォーカスし、動き出す肉体で人間の心の苦しみと傷跡を表現します。

また、20年も村上のアートを象徴してきたモチーフとキャラクターも今回登場します。その中の一つはドクロです。ドクロのパターンは、仏教で説かれる我々の命のはかなさを、または西洋の伝統である「ヴァニタス」(訳注:寓意的な静物画のジャンルのひとつ。村上作品ではその画像が「人生の空しさの寓意」を表す)をシンボライズしており、ペインティングの構成要素になったり(例えばドクロでできた橋の上に獅子が座っているものや、ドクロの岩の上に様々な動物たち、象やヤギ、虎などが立っているもの)、Monochromesや円相シリーズのようにシリーズ全体の背景を活気づける役割を果たしたりします。またそれらはときに、熟視・熟考の対象となる中心的モチーフにすらなりえます。

他に17世紀の日本人作家、尾形光琳に言及しています。光琳の白い菊のモチーフは、村上に深い印象を残しました。(2009年に、その最初のシリーズを当ギャラリーにて展示しました)金箔またはプラチナ箔の背景と鮮やかに対比を成すお花たちは、日本の伝統そのものです。背景に使われた貴金属は、優美ではかない菊という植物の壊れやすさと、デリケートな対比を生んでいます。そしてやはりそれらは、「メメント・モリ」を想起させるのです。抽象的なパターンも村上のペインティングでよく登場していて、時には一つの作品を占めている場合もあります。そこには魅了させる宇宙のヴィジョンと、アーティストの抽象表現主義への思いが一体化され、サイ・トンブルやロイ・リキテンシュタイン、シグマール・ポルケなどの影響も見えてきます。そして最後に、村上の最も有名な分身「DOB君」も、様々なコンテクストで自由に変身して登場します。

村上隆は、日本画において博士号を取得、綿密な最先端の技術と伝統的な日本芸術の技巧を組み合わせて作品を制作しています。漫画や「カワイイ」文化に着想を得た、村上の魅惑的な世界には、古来の神話から生まれたユニークな子孫、怪物のような魅力的なキャラクターたちが溢れています。

村上が2000年に提唱したスーパーフラットという美学的理論は、大衆芸術とハイ・アートの境界線を曖昧にしようとするものです。また、それは、日本の広島原爆投下後の状況に対する日本の理解の変遷、前衛アート、漫画、アニメ、それらの元になった浮世絵版画の相互関係を模索してきました。遠近感の不在、古来日本美術の二次元性が先に挙げたようなメディアには深く浸透しているのです。

1995年に海外初の個展をギャラリーペロタンで開催して以来、村上隆は最も有名な現代アーティストの一人として知られてきました。世界中の美術館やアート施設で開催された数々の個展で彼の作品は展示されてきました。2010年、フランスのヴェルサイユ宮殿の敷地内で個展が開催され、2012年にはカタールのドーハ(Al Riwaq Exhibition Hall)にて、カタール国立博物館(QMA)の主催で「Murakami-Ego」展が開催され、全長100mの大作「五百羅漢図」が展示されました。また、横浜美術館にて、展覧会「村上隆のスーパーフラット・コレクション ―蕭白、魯山人からキーファーまで―」が、2016年1月30日から4月3日まで開催されました。