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アジアソサイエティでのスピーチについて

ニューヨークのアート界ニューズサイトGalleristが先日の僕の香港のスピーチをちょっと皮肉ぽく紹介しているが、皆さんにフルコンテクストが分かるように、そのスピーチの全文をここで載せます。

<スピーチ原稿>

ご存知のように私は日本人作家であり、アメリカにてそのキャリアを初めて、構築させていただきました。

日本は東洋の一国であり、常に外国の文化の影響に対して受け入れる姿勢を見せ続けてきた国です。
かつては、韓国や中国から吸収し、そして敗戦後は、アメリカ、イギリス、フランス等の戦勝国の文化を吸い上げてきました。

時間軸的に、同じように、東洋の現代美術シーンは戦後、西欧のフォームを一気に吸収しようと躍起になってきたように思います。

西欧と東洋の融合と対比がテーマ設定され、西欧の追っかけからはじまり、急転直下な東洋のオリジナリティの発露に多少失敗し西欧と東洋の融合の試みは今も尚実験中で、その答えが、作家側から、状況側、から加速し、現在に至っています。

こうしてアートフェアに合わせて、アジアと西欧の出会いが積極的に行われ、そのことを祝福する場で自分がこういう賞を頂いた意味を考えてみた時、そのブレイクスルーを行う事が、この先の未来に期待されているのではないかと思いました。では、そのブレイクスルーの壊す場を何処に設定するか。

それは、芸術のイノセンスに対して設定する、と仮に言ってみましょうか。

アートとは最も基本的なレベルでは『人という生き物の、限界を知る素晴らしい策定装置』です。
特に、人間の欲望の部分への策定装置としては最高に機能するメディアだと思います。
欲望の意味での、アートフェアやオークションという装置は、非常に効果的です。

欲望を思考するにあたって、2008年9月に行われた、ダミアン・ハーストのサザビーズオークションを考えてみましょう。
アーティストのオークションへの直接介入は、大きな批判の対象となりました。
金儲け主義、業界の調和を崩す蛮行、自分勝手。。。
丁度、リーマンショックの時期と丸かぶりした為、マーケットの混乱を誘発し、オークション当日の成果は芳しくも、その後の実売においては捗々しくない結果となり、非常にネガティヴに語られてきています。
ビジネス的にも、作家のブランドとしても、大失敗であった、と。
しかし、僕は正反対で、あの勇気こそ、芸術の歴史の中でもっともっと脚光を浴び、意味を見直されると思うのです。

洋の東西に限らず、未だに、アーティストはマーケットに対してイノセントなままな状況が望まれているのはわかるのです、がそういった綺麗事を抱えたままでは現状の破壊、限界突破が出来ないと思うのです。

こう言うと、僕がマーケット至上主義を思考しているように思われるかもしれませんが、そうではなくて、批判する側の、そういう臭いものに蓋をしようとする状況に対して、本当のリアルな現実の風景を活写することが使命だと思っているのです。
なぜなれば、アートは既にゾンビの風体と化している事実があるのです。

ゾンビとは何かというと、その名の通り、どういう理由かはわかりませんが、人間が一度死に、死んだにも関わらず、死肉を喰らい、動き続けている状態の生物、SF映画の設定です。
今のアートシーンは、そんなゾンビたちがうごめいている世界であると思うのです。
そして、そんなゾンビ達が人並みに恋をしたり家庭を造っていたりするという、もう頭が千切れそうな驚くべき世界観となっているのです。

荒涼とした破壊され尽くした場、それは現代人の心の風景ですが、そこに必要なアートとはなにか。

そういう事を考え、今後も活動してゆこうと思います。
皆様からのご指導、これからもどうぞよろしくお願いいたします。

(2014年5月12日のスピーチより)

http://galleristny.com/2014/05/takashi-murakami-on-the-art-world-full-of-zombies/