News

中村一美×吉竹美香 トークショー レポート

中村一美さんと、ハーシュホーン美術館彫刻庭園アシスタント・キュレーターの吉竹美香さんのトークショーが開催されました。吉竹さんは、LAのBLUM&POEギャラリーで、もの派のグループ展をキュレーションし、戦後日本のアートに対するブームを起こした立役者でもあります。

トークショーが始まる前に、まずはカイカイキキのプロデューサー笠原から、10月に刊行予定の『メディウム・オブ・コンティンジェンシー』の紹介が行われました。出版を記念して「美術手帖」芸術評論賞受賞の若手評論家によるトークイベントも準備中です。
詳細はこちら

手に持っているのが英語で書かれた原本。この日本語版を作っています。a

続いて、村上隆よりトークショーの導入として、「吉竹さんは©MURAKAMIを開催した時に、LAMOCAのポールシンメルさんの右腕として、現場の実務、調査、マーチャンダイズのキュレーションなど担当して頂いた方で、アメリカからの客観的な目線で、中村さんを切り取って頂きたかった」と、吉竹さんにオファーした理由を説明。

村上は吉竹さんとも、もう10年近い長いお付き合い。b

そして、いよいよ、トークショースタート。吉竹さんは、中村さんが支持していた榎倉康二氏が「もの派」における中心的存在であったということに着目し、作品制作やご自身の哲学にどう影響していったのかという話から始まりました。それは、日本国内における美術の動向だけではなく、中村さんが学生時代に叩き込んだアメリカ美術史からの参照に至るまで、縦横無尽に語られました。

吉竹さんは、この対談のために、ワシントンDCから来日。c

中村さんの作家性で取り沙汰される要素の1つが、その作品点数。これまで千数百点に及ぶ絵画を制作されていますが、それは学生時代に「作品をつくり続けるには、どうしたら可能か」と考えられたことに端を発しています。

さまざまな作家の研究をしてきた中で「開かれた方法論をもつ事」の重要性から、「Y型」「庵」「破庵」「採桑老」「連差-破房」「存在の鳥」などのシリーズ作品を開発する一方で、形式だけにとらわれず情勢にリンクする作品を生み出していくことなど、作品制作のバイタリティーに迫るお話もして頂きました。

中村さんも自作の絵画論を熱っぽく語ります。d

斜行グリッドシリーズが、海外の絵画にみられる水平垂直のグリッド構成とどう違うのか、作品を見ながら解説頂くシーンも。

畳のスペースに座りきれず、急遽パイプ椅子も並べての、満員のお客様でした。e

そしてお話は、吉竹さんが強く関心を示されていた、Hidari Zingaroでの展覧会タイトルにもなっている「ソーシャルセマンティックス」(社会意味論)と「抽象」について。

中村さんは、第一次世界大戦のヨーロッパの荒廃した国土の中から生まれた、「社会変革」と「抽象」は密接な関係を持っていると考え、現状的な社会情勢や体制に「No」を言いたい時、抽象的なスタイルは採用される。「抽象」が90年代に廃れたのは、ベルリンの壁の破壊やソビエトの崩壊によって冷戦構造が消失したからであり、今、抽象表現が見直されている理由は、地球環境問題の悪化や貧富の差の拡大など、社会情勢に異議申し立てを行う精神的な装置として働く可能性があるから、と分析。

アメリカ美術史や社会情勢を紐解きながら、中村さんの作品コンセプトの結びつきを参加者が共有できる充実したトークショーとなりました。

二人の後ろにある大作からも、強烈な色彩とエネルギーが発せられるよう。f

展覧会は、いよいよ、来週10月2日(木)で終了します。
日本の戦後美術の特異点でもある抽象絵画に、ぜひ足をお運びください。

さまざまな斜行グリットと色彩が交錯する空間を体感ください。g

photo
a-f:Teruhiko Fukushima
g :IKKI OGATA