カオス*ラウンジは、日本の戦後の左翼的正義感が強い。
故にカイカイキキとは反目する。
─ Mr.

左翼的文脈を超える

Mr.:僕の自分史の中で、これまで無制限な「自由」っていうのはなかった。徒弟制度の中だったしね。縦社会。カオス*ラウンジは水平の人間関係。だからそのブレイクは衝撃だったし、村上さんが加担する意味がわかんなかったけれど、結局瓦解した。カオス*ラウンジはある意味、日本の戦後の左翼的正義感が強い。故に資本主義的な動きのカイカイキキとは反目する。でも、どっちがリアルかって言えばそうした左翼的気分だということもわかる。

STAG:左翼的なカウンターは国内の既存の価値観に対しては有効だけど、アートマーケット全体で見れば、単なる日本特有のサブカルチャーとして回収されてしまうわけですよね。そこにある新しさも、日本の国内の現場にいる限られた人間にしか感じられない。 僕は村上さんの話を聞くまではpixiv自体を現在のイラストレーションのメインストリームとして捉えていたんですが、一方で世界単位のスタンダードの視点で見ると、ちょっと見方が変わってくるかな。

NaBaBa:その世界単位のスタンダードは僕も常に意識している点であり、それを一つの根拠として数年前までpixivを批判しまくっていた。内輪盛り上がりを是とし、それ故の排他的なところが猛烈に嫌だったんです。「いいものまで排他するな、ローカル・ルールに閉じこもるな、pixivはそれを煽るな!」ってね。 もっとも、当時これはいいと信じていたものの多くは、結局内輪で完結しているだけだって最近になって気付いて、今の自分の怒りは日本のサブカルチャー全体に拡大しているけど。

JNTHED:創作する際、多くの人が無意識的に満足や可能性にリミットを設けてしまっているってところにNaBaBa君は憤ってる感じがする。視野を広げて、まずは構造を俯瞰してから建設的なことしようぜって。

NaBaBa:自分のゴールは洋ゲー(欧米で開発されたゲーム)の作品的質と市場規模共々のパワフルさなんだけど、そこへ行くには道筋が遠いから、かつてはpixivという場所にいた。そんな自分の作品がグローバリゼーションに乗っているかどうかもわからず、ローカルの蛸壺でやっていて「よし」とすることへの怒りでひたすら作品をつくっていて。だから、内輪でくすぶるのではなく、世界とのパイプがある中で、完成された市場に対して打ち出そう、そこで評価されるために努力しよう、ということがやりたくて僕はゲーム会社に就職したんです。会社で起きていることはやっぱり一つの正義だと思うんですよ。自分が関わってつくった作品が、メジャーな流通システムに乗って世に出され、評価されるところを見ると、「メジャーのパワフルさはこんなにもすごいのか!」と面食らいましたからね。社会に及ぼす影響力は、自分がpixivでくすぶっていたときの比ではない。

Mr.:マジでガチすぎて「ふざけることができない」みたいな?

NaBaBa:そうですね。そのガチのすごさ。反体制ではなく体制的なものを築いても、そこでしか生まれ得ない力強さを自分は痛感した。作品としてのパワフルさは揺るぎない。

Mr.:僕のガチな部分は、1、日本に居住してること。2、海外に向けた文脈を探る。3、客観的な目線で国内のオタクを分析する。4、戦争と自分。かな。