Carnival

エリック・フォス

2023年4月8日(土)- 2023年4月28日(金)
開廊時間:11:00〜19:00
閉廊日:日曜・月曜・祝日

オープニングレセプション:
2023年4月8日日(土) 18:00〜20:00

Uncle Fester, Waterbased paint and solid paint marker on canvas, 1320x1092mm ©Erik Foss

 

2023年4月8日より、カイカイキキギャラリーではエリック・フォスによる日本初の個展「Carnival」を開催いたします。
ニューヨークを拠点に制作するエリック・フォス。イリノイ州で生まれて、アリゾナのフェニックスで生まれ育ったフォスは、アートスクールには通わずに、アーティストになりました。ネオンカラーで描かれたスネークが作品に頻繁に登場し、それはフォス自身が経験してきた80年代のアメリカのロウブロウ的なカルチャーのアイコンでもあります。これまでにアメリカ国内での個展が中心であった作家の日本初個展となる本展。半年以上前から構想されていた 新作ペインティング群、そしてドローイング群をご覧いただけます。ご高覧ください。


Gotham, Water-based paint and solid paint marker on canvas, 2590x2235mm ©Erik Foss


The Snake Charmer – Carlo McCormick

エリック・フォスは砂漠の出身である。地理的にはソノラ砂漠、そして社会的にはアリゾナ州フェニックスの郊外にあるトレーラーパークだ。そこでは、貧困・権利剥奪・偏見・無知により、都市生活者の多くが「芸術」と呼ぶ文化的表現と鑑賞の基盤から人々が切り離されている。これはフォスの生い立ちに限ったことではなく、アメリカ、そして世界の大部分でも同じだ。オペラやバレエ、美術、文学などを後天的に味わうことができない「文化の砂漠」に住んでいる。これは大都市の文化圏外には図書館やコンサートホール、美術館やギャラリーがないという話ではない。それらの機能が大多数の人々にとっては低減し、卑下され、エリートのためだけのものとされているのだ。これは階級と大いに関係がある。階級とは、私たちが、あまりにも根強く体系化されているためその無数の微妙な影響を解き明かすことができない社会経済的な格差全体を示すために使う略式修飾語だ。しかし、政体に世代を超えて入り込むすべてのものと同様に、それはアイデンティティとも大いに関係がある。

文化的アイデンティティは、エリック・フォスの最近のペインティング作品群で重要視されている。蛇をモチーフにしたものが多いが、スマイリーフェイスや虹、風景といったポップカルチャーの残骸的簡易シンボルをあしらったものも多い。このような無粋なキッチュさ、そしてありふれたような装飾はフォスが誰であるか・どこから来たかを自ら語る方法なのである。30年近くニューヨークで暮らし、アーバンアートと呼ばれるものをそのありきたりの定番にハマることなく制作してきたアーティストが、自己変革の探求としてではなく、ありふれたものの個人的な意味を探るために自身のルーツなきルーツへと立ち返るということは驚くべきことである。エリック・フォスは、ジョージア・オキーフや荒々しい西部開拓時代の語り部であるフレデリック・レミントンやC.M.ラッセルのようにアメリカの芸術家にとっての伝統である崇高な砂漠を描いているわけでも、ジャン=レオン・ゲロームのような画家からフレデリック・チャーチやターナーのような画家たちが描くような、植民地主義の東洋的エキゾチックさを描いているわけでもない。彼の描く砂漠は、バンの側面にエアブラシで描かれているようなもので、美しさ、そしてシンプルさが生み出すエキゾチックな魅力とも無縁なものである。フォスの堕落した基本言語は不穏な複雑さに包まれており、空っぽの記号や安易で安っぽいロゴイズムという罪の快楽を、心にも身体にも魂にも明らかに不健康だとわかっている癒しフードのように提供する。

ソノラン砂漠は、今回のペインティング群の中で一度のみ登場する。絵葉書のようなきれいな背景としてのそれは、すでにフォスが幼少期に住んでいた家よりも長い期間を過ごしている場所・ニューヨークの風景に相対する形で描かれる。しかし、砂漠は、彼の蛇の絵の中で土地を象徴する図像としてではなくむしろ、彼の育った時代の視覚的風景である若者文化の商業/消費的象徴として登場する。それは戦後のアメリカの若者に特有のホットロッド、パンクロック、スケートボードグラフィック、ブラックライトポスター、ギャンググラフィティ、ローライダー、タトゥーなどのロウブロウカルチャーの混合物としていたるところに出てくる。キングコブラはアメリカ原産ではないが、この文化の中ではモチーフの中心になっている。カスタムカルチャーのデザインには欠かせない存在だからである。ここでは、それらは現実の土地にではなく、想像力の中に存在している。

もちろん、蛇はエリック・フォスの絵画に限ったモチーフではない。むしろ、多くの民族や時代の物語に広く登場し多様な意味を持つことによって、フォスの作中での蛇のモチーフの存在感が増幅されている。北欧では、毒蛇の幻獣「ヨルムンガンド」がロキの息子で、世界の終末を意味する「ラグナロク」の時、雷神ソーを殺し、殺される。ギリシャ神話では、蛇の髪を持つゴルゴンの中でも最も有名なメデューサがおり、その視線は人を石に変えてしまうが、最終的にはアテナの助けによりペルセウスによって殺される。アステカでは、風と雨の神ケツァコアトルが創造神話の中心であり、ホピ族では、降雨と土地の豊穣のために何日もかけてスネークダンスというダンスを踊る儀式がある。アメリカの農村部、特に20世紀初頭のアパラチアでは、蛇との交流を行い、不可思議なまじないのような言葉で神と交信するというコミュニケーション方法は少なくとも2世紀のオフィトのグノーシス主義にまでさかのぼる。インドには古代エジプトと聖書にさかのぼる蛇使いの長い伝統があって、魔法や癒しと関連づけられ、1972年についに非合法となるまで大きな観光客の呼び物となっていた。ダホメ族にとって蛇は、脱皮をすることから、不老不死や輪廻転生の象徴であり、ジュメリアン族では癒しと関連づけられていた。

蛇は、動物界の中でも、神話や伝説、宗教に登場することが多い動物である。ヒンズー教と仏教のナーガはサンスクリット語で蛇を意味するが、コブラの頭巾を広げてブッダを嵐から守り、やがてブラフマーがその危険な気性の荒さから蛇を地下に追放する。エリック・フォスのカトリック教育に近い心理として、5世紀のキリスト教宣教師、聖パトリックがアイルランドの蛇をすべて海に追いやったことは、異教徒の絶滅の寓意である。さらに多くの人が、エデンの園にいた蛇が人類の誘惑、罪、恩寵からの転落の原因であるという聖書の物語をいまだに信じてもいる。
大衆文化のアイコンとして、宗教的な経典のページよりも、むしろ子供の寝室のポスターや腕のタトゥー、スケートボードの底、Tシャツやロックアルバムのジャケットなど、あらゆる場所で見かけることが多い蛇は、精神的、民間的、大衆的な意味合いをすべて体現する。フォスの蛇は私たちの想像の中で欲望と恐怖の間を蠢く、お守りのブレスレットにぶら下がるメタファーのような蛇恐怖症/蛇愛好症と、危険の暗示と暗黙の魅惑に覆われた喜びと帰属のサインとなる。エリック・フォスの魔法と哀愁の記憶の中で、その蛇たちは、DayGloのネオン塗装のようにフレッシュで、人類と同じくらい古い歴史があるようにも思え、こちらに威嚇するような目やとぼけたような笑みを浮かべもする。


Cruisin the Strip, Water-based paint and solid paint marker on canvas, 1575x1321mm ©Erik Foss


▼ご来廊の際のお願い

来廊時には必ずマスクを着用いただき、入場時には手指のアルコール消毒にご協力ください。
マスクを着用されていない場合は、ご入場はお断りさせていただきます。予めご了承ください。
また、体調がすぐれない方はご来廊をお控えください。

ギャラリー側でも、定期的な換気の実施や、お客様がお手を触れる場所のこまめな消毒、スタッフのマスク着用等の感染防止対策を行います。

*展覧会開廊日と時間について
今後の状況により、営業時間の変更などや、やむを得ず休廊となる場合がございます。

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