ひびき合う土の記憶

上田勇児

2018年11月27日 – 2018年12月1日
開廊時間 :11:00 – 19:00
閉廊日:日曜・月曜・祝日
レセプション:2018年11月27日(火)18:00〜

カイカイキキギャラリーでは、11月27日より12月10日まで、上田勇児個展「ひびき合う土の記憶」を開催いたします。

陶芸の里滋賀県・信楽のお茶農家に生まれた上田勇児は、日本の伝統に文字通りどっぷり浸って育ちました。 陶芸との出会いもごく早い時期にさかのぼります。 子供の頃は窯跡を遊び場にし、またお茶を商うという家業も陶芸とは切っても切り離せないものでした。

2002年より高名な陶芸家である神山易久に師事し、陶芸作家としてのキャリアをスタートさせたのちに上田は釉薬を使った実験を試みるようになり、最終的には自分の穴窯を築造します。 以来、ひび割れや変形を美しさとして取り込む独特な作風を展開させ、ペーパーウェイトほどの大きさのオーナメントから高さ2mにもなる巨大な作品まで、様々な種類の焼き物を生み出してきました。 その形状の幅広さがゆえに、作品は日本各地の小規模な小売店のみならず、ニューヨークやロサンゼルス、香港にある現代美術のギャラリーや、それらの地で開催されるアートフェアで展示される機会も得ています。

本展では、信楽・上朝宮の工房より集結した、100点を超える作家の最新作を一挙に展示いたします。 カイカイキキギャラリーでは初の個展となります。 上田作品の真髄と存在感を、是非この機会にご堪能ください。

作家から本展に寄せて

小さい頃、古い窯跡で遊んでいました。
手で掘ってみると、つぼの欠片や、焼けた窯壁が出て来たりして、今はただの斜面になっているのだけれど、ここでしか出来ない物があったのだなと思いました。

僕の窯場の近くには、沢山の種類の土があり、散歩の途中で見つけて使っています。 それをひと握りずつ確かめながら、積み重ねていく事によって、何層にもなった土の塊を、風やガスの圧力をかけながら焼く事によって、歪んだり、時には、爆発したりします。その焼きあとに何か見つける事が出来ると思います。 作品が大きくなっていくと同時に体に伝わる感覚も大きくなり、より大きな動きを掴み取っていく事によって見えて来るかたちが、まっすぐに入ってきました。

上田勇児

村上隆からのメッセージ

上田勇児さんの個展に際して

上田勇児さん
デヴューして10年。
彼のキャリアの中で、最も抽象的な作品の制作、かつ最大の作品を完成させて、満を持しての展覧会である。 出来上がってきた作品群は、僕の主観においてだが、彼の人間の塊が吹き出しており大変、素晴らしい物になっていると思う。

しかし、この状態になってくるまでの行程を考えると、よくぞここまで絞ってきたな、と思う。 誰も体験していない世界への1人旅。 孤独と不安、裏腹な確信と自信。 そういう心の襞が全て作品に出ている。 素晴らしい作品群!感動しました。

アーティストにおいて一番大事なのは、コンセプトを上手に語る、では無く、作品にそのすべての答えが出すことが出来るかどうかだ。 もちろん、作家のその時の気分やテーマというのもあるであろうが、脳内の御託は作品に反映されてこそである。 陶芸作家の場合、土の選び方、温度、釉薬、自然環境との関係性、それはすべてその作家の知恵と情報の集積であって、それが全部合体することによって真の芸術作品になっていくのだ。

上田勇児本人に今回の展覧会のテーマを聞くと、なんとも拍子抜けする幼稚な言葉が返ってくる。

『かっこいい作品を作りたい』

まぁ、40歳を超えてこれかよ、的な言葉だが、言葉の幼稚性を凌駕し、今回の作品群は本当に神々しい芸術的な輝きを宿している。 10年後、50年後の遠い未来に、今回の作品群を見ても、今見えている鮮度がキープされているであろう。 それは、作家の人生、野心、哀しみ、困窮、全てが、塊になって表出されている、ということだから。

僕はこういう芸術作品に出会いたくて、出会うための場を作るためにギャラリー事業をやっているのだが、その立場冥利に尽きる体験を今回はできた。

ここまで作品への芸術性を引き上げた上田君、そして奥様のユイさんに「おめでとう」と言いたい。 また、上田君を僕に紹介してくれた、大谷工作室さんにも大感謝だ。 ありがとう。

カイカイキキの當麻も、遠藤、石森、他、担当したスタッフも扱いづらく、ものすごい重量の作品取扱は大変であったろうと思われる。 というか、作家本人が扱いに困ったか。 。 。 ははは。

、、、と、アカデミー賞を獲ったような祝辞を言いたくなるほど、今回のプロジェクトは成功であり、かつ大変な長期の事業であった。 今後もこういうトリッキーな制作体制を続けていくか否か、作家の気力、我々の興味の持続、経営的な判断、などが合わさって決定してゆくと思うが、仮に売れなくても、この後数年は、続ける意味はあると思っている。

さて、今回の展覧会の在り方が、日本の現在の陶芸業界の在り方とは随分違った道のりであることを説明せねばなるまい。 通常日本の陶芸家は、年に2回から15~20回ほどの個展を日本全国のギャラリーで行って行き、様々な土地で何回も展覧会を行うことにより販売効率を上げ、売上を立ててゆく。 その際、ギャラリーと作家との取り分は作家6:ギャラリー4で、委託となっていて、売れた作品分だけの後払い。 ギャラリーによっては手形を発行したりして、支払いの遅配で、陶芸作家にストレスを掛るケースも有る。

上田さんは、展覧会の数も少なく、かつ上記のようなストレスの経験は絶無というが、とにかく、年に数回の展覧会で稼いで食ってゆく行為を一切止め、今回の展覧会一回のために全てをこの1年半程、集中して来た。 つまりこの個展成立のために、我々は展覧会制作資金のサポートをしてきた。

サポートの流れは、上田さんが作品のプランニングを我々に伝え、いくら必要かという数字を提案してもらい、その提案に疑問があれば質問をし、修正してもらい、できるだけ少ない金額をはじきだして、彼に送金する。 送金して、作品ができあがって、彼からの作品の代金を提案されて、その代金の金額引く、先行に資金提供した額面を引いて、残金を支払うという流れ。 つまり、作品の先行買取で進んできた。

プロジェクト発動当初、上田さんと奥様の由衣さんの、製作と生活、そして2人のメンタルのバランスは、とても悪く、ビックリするほど前後を何も考えておらず、特に金へのリアリティが崩壊していた。 何度も会議電話を行い、上田勇児さんを紹介してくれた大谷工作室さんにも会議電話に参加してもらったり、僕からずいぶん説教もした。

今回、作風も大幅に変わっている。

この展覧会の為の制作に入る前は、上田さんの十八番であった、作品の表皮が剥がれているような、壊れやすい表現が主流であった。 日本の陶芸の鑑賞習慣の中に、壊れてしまったら、漆と金泥を混ぜて、接着し直す「金継ぎ」という技術があり綻びを愛でる美意識がある。 つまり、壊れやすい表現は日本人においては「儚さ」「もののあはれ」を表現するものとして好意的に受け入れる土壌があり、その部分が上田さんの表現に共鳴して人気であった。 しかし、日本国外では壊れてしまったら、取り替える、もしくは破棄する、という物を愛玩する気持ちに違ったリアクションがあり、故に上田の作品は日本人以外のお客様には壊れると返却を希望する者が多発した。

このことを作家と話し合った。 今後も、壊れやすさを表現の核として制作し続けるのか。 もしくは、壊れづらい作風に舵を切り、かつ、今までの創作の概念を全う可能にする表現を探る当てるか。 上田は後者を選び、3年を経て今回、その解答にたどり着いた。

これは、宗教家が宗派を変えることと同じぐらいの大決断である。
しかし、それを実行し、成功に導いている。

上田さんの新作のテーマは、まさに『人生のもののあはれ』である。

ぜひ、今、陶芸活動をしている作家の皆さん、もしくは、最近の陶芸を見て、本質をもっと見届けたいと願っている陶芸ファンに見ていただきたい。
また、日本国外のお客様方には、この日本の新しくも古典となりえる作品を一度手にとってほしい。

とにかく、カイカイキキギャラリーは自信をもってこの展覧会を開催します。

村上隆