レインボー・ブリッジ

ウェンディー・ホワイト

2018年6月28日 – 2018年7月18日
開廊時間 :11:00 – 19:00
閉廊日:日曜・月曜・祝日
レセプション:2018年6月28日(木)18:00〜20:00

197 Madison. 2012.
Acrylic on two canvases, inkjet print on vinyl.
2438 x 3048 x 76 mm.
©Wendy White.
Photo by Thomas Mueller.

カイカイキキギャラリーは6月28日から7月18日にかけて、ウェンディー・ホワイト個展「レインボー・ブリッジ」を開催致します。

古代スカンディナヴィアの神話において、虹の橋(rainbow bridge)は地上と神の領域とを結ぶ道でした。 本展においてそれは、アスリート的な表現とアーティスティックな創造を表すメタファーとなっています。 アスリートはアーティストと同様に、コンマ数秒の即興的なパフォーマンスを求めて、数えきれないほどの時間をかけて孤独なトレーニングに励みますが、その瞬間を捉えられるか逃してしまうかは、そのときどきにかかっています。 そういう一瞬は確固としたアイデアであると同時に、過ぎ去っていく束の間のひらめきでもあります。

アスリートはしばしば、ほとんど無意識に近い「ゾーン」という状態、すなわち何も考えることなくパフォーマンスを行うことができる状態について口にします。 これをアーティストのスタジオに置き換えると、スキージャンプの選手がまさに飛び立つ瞬間のようなものだといえます。 つまりそれは確かに捉えられると同時に捉えることができず、実現不可能な離れ業でありながら絶対的な必然でもある、ということです。

《Elan(Sara Takanashi)》(2015)は、このような状態を捉えようと試みた作品です。 ここに描かれているのは、スキージャンプのチャンピオンがまさに飛行している最中、つまり純粋な表現の瞬間です。 それとは逆に《Fischer (Ernest Yahin)》では、選手がまさに転倒している最中、すなわち劇的な失敗の瞬間が記憶として切り取られていますが、失敗もまた、鍛錬と技術の習得というプロセスとは切り離すことのできない要素です。

1970年代から80年代にかけて活躍したレーシングドライバーたちを描いた複数のキャンバスから成る3点のポートレート・シリーズは、ドライバーたちをネオンカラーの虹のような色の帯を背景にくっきりと際立たせ、男性が支配するカーレースの世界に身を置いた女性ドライバーたちが持っていた不屈の精神と、その存在の珍しさに、トリビュートを捧げる作品です。 そして角に目をやると、キャンバスとキャンバスの間にあるスペースに架かる光沢のある黒い虹が、写真によって捉えられた別々の瞬間を、視覚的かつ物理的につないでいるのがわかります。

《197Madison》(2012)は、インスピレーションの一部をミシェル・ド・セルトーの著作に得ています。 その中でド・セルトーは、街を歩くということは目に見えない詩的な小道の層を積み重ねていくことである、と述べています。 この作品は、ニューヨーク市のとある食料雑貨店の看板を収めた写真とをグラフィティに影響を受けたモチーフやかろうじて判読可能な文字と組み合わせ、ニューヨークという街の、自然発生的なものもあれば押し付けられたものもある、視覚的な層の重なりを称えています。

《Jeans》(2017)は、ばらばらに分解したメンズのデニムパンツを使った自由造形のウォール・インスタレーションです。 この作品はアメリカのシンボリズムをめぐる瞑想であり、そこでは、荒っぽく耐久性のある存在が天空の星たちへと姿を変えています。 ジーンズを使ったその他のキャンヴァス作品においては、ジーンズという素材は風景、およびある方向に向かって筆でおかれた塗料の代わりとしてそこに存在しています。 ポロックを思わせる絵具の飛び散りは、公式に認定されている身振り(訳注:アクション・ペインティングの「ジェスチャー」を指す)や、着用によって生じた自然な傷みへのレファレンスであり、そこにカラフルな色の帯や空のイメージを足すことによって、アメリカに特化されたノスタルジーの隣に、更に雰囲気的な要素が並べられるかたちになっています。

「レインボー・ブリッジ」は、ホワイトによる「Fotobild」、「Multiple-canvas」、「Portraits」、そして「Jeans」というシリーズ(2012~2018)から村上隆がピックアップした作品と、今回東京で初めて展示される4点の新作とで構成されます。カイカイキキギャラリーでの初の個展を通じて、ウェンディー・ホワイトという作家の脈動する世界観をお楽しみください。

作家から本展に寄せて

私は似たような作品を繰り返し制作するタイプの作家ではない。 できないのだ。 代わりに、メディウムの境界を探りながらただひたすら前へと突き進む。

村上隆さんが私のこの衝動を理解してくださっただけでなく、私がこれまでに生み出してきた作品のなかから、多様でありながらもあるひとつの基準に貫かれたグループを今回の展示に向けて選び出すことによって、それを支持して下さったことを、とても光栄に感じている。 作品同士の新たな関係性は、時に他人の目を通して見出だされることがあるが、今回はまさにそのような機会を得ることができ、本当にありがたく思っている。

個展「レインボー・ブリッジ」はもともと、より小規模な展覧会として企画された。 しかしその後、展示の対象を過去の作品にまで広げたことにともないコンセプトも広がりをみせ、作品と作品との間に架かる橋のみならず、橋の行き来それ自体をも包括するに至った。 私はよく、自らの個人的な、また文化的な衝動に、リアルタイムに反応してそれを作品に反映することがある。 人間の純粋な表現形態としてのスポーツや、感情を表すメタファーとして使われる楽観主義のシンボル、そして移ろいやすく実体のない存在である虹に対する私の関心は、今アメリカが経験しつつある不確かな時代という背景のなかで、増幅されている。 気づけば私は、前を見ると同時に後ろも振り返りながら、なんとか我々がよろめくことなく、揃って着地を決めることができるようにと願っていた。

ウェンディー・ホワイト